2016年6月8日水曜日

呼吸

春が来て、夏が過ぎ、秋が通り抜け、また冬が来て、幾年月。

ある冬の日に力尽き、春をやり過ごして、新しい夏を待っている。

状況は大きく変わった。

小さくとも生きることを許されて、怒りはすっかりと萎んでしまった。諦めとも達観ともいえない、静かな感情の中で、今は時間が過ぎるのをじっと待っている。去るべきものは去り、最小限の人間関係だけが残った。

なんと心地の良いことか。

ただ風に吹かれ、雨に打たれ、日差しの中で新たな熱を蓄える。流れに身を委ねて呼吸だけを続けること、それだけの毎日だが、そんな原始的な営みが今はとても愛おしい。

水面で大きく喘ぐ魚のようだった、あの息苦しい日々が、遠い昔の出来事のように思える。いずれまた湯のぼせするような日常に戻るにせよ、今日このときの記憶に立ち返ることが出来るならば、煮上がってしまう前に、涼やかな場所に移ることもできるだろう。

繰り返されされても、避けどころは必ずどこかにある。

今日は深く長く、呼吸を続けよう。呼吸の記憶をこの身に刻み込ませ、憂し事をすべて吐き出せるように。